ほんといろいろ。

小説の感想とその他いろいろ(音楽、映画、壁紙...)愚考録

Book

戦争かそれ以前か『悪童日記』アゴタ・クリストフ

とある戦争の最中、<大きな町>から<小さな町>へと疎開してきた双子の秘密のハードボイルド日記。無感情から生まれるエモーション。とても刺激的な読書体験を味わうことができる。これは読んでおいて損はない小説である。 戦争が激しさを増し、双子の「ぼくら…

それは書くべきである『供述によるとペレイラは…』アントニオ・タブッキ

私は子どもたちに何としても原爆資料館と平和公園を見せてやりたい。 -附田政登(盛岡誠桜高校校長)2019 2019年11月24日。ローマ法王訪問による平和公園閉鎖のため、予定していた修学旅行での「広島平和記念資料館」見学を諦めていただけないか。そう連絡を受…

全てへの祈りを捧げる眠りの書『レクイエム』アントニオ・タブッキ

夢でもし逢えたら素敵なことね あなたに逢えるまで眠り続けたい 『夢で逢えたら』大瀧詠一 前回の『インド夜想曲』が不眠の書であるならば、この『レクイエム』は眠りの書と言えるかもしれない。ゆっくりとまぶたを閉じ眠りに落ちれば、もう一度逢いたいと願…

アトマン探求の旅。『インド夜想曲』アントニオ・タブッキ

失踪した友人を探してインド各地を旅する主人公、彼の前に現われる幻想と瞑想に充ちた世界。インドの深層をなす事物や人物にふれる内面の旅行記とも言うべきこのミステリー仕立ての小説を読み進むうちに読者はインドの夜の帳の中に誘い込まれてしまう。イタ…

輝ける愚行の穏やかな響き『ブルックリン・フォリーズ』ポールオースター

つまり、草野正宗氏の言葉をお借りするならば、 くだらない話で安らげる僕らは その愚かさこそが何よりも宝物 (「愛の言葉」より) ということなのだ。 傷ついた犬のように、私は生まれた場所へと這い戻ってきた──一人で静かに人生を振り返ろうと思っていたネ…

『ミスター・ヴァーティゴ』ポールオースター

いつから無心で信じるということができなくなったのだろうか。 「私と一緒に来たら、空を飛べるようにしてやるぞ」ペテン師なのか?超人なのか?そう語る「師匠」に出会ったとき少年はまだ9歳だった。両親なし、教養なし、素行悪し。超然とした師匠の、一風変…

それは唯それである。『穴の町』ショーン・プレスコット

属性というのは生まれついた環境であって、勝ちとったり見つけたりするものではないのだ。 (『穴の町』より) 「育ってきた環境が違うから好き嫌いは否めない」僕はセロリ好きだが、あなたは嫌いかもしれない。 先日ふらっと入った本屋さんの外国文学コーナー…

川上未映子『乳と卵』から『夏物語』へと続く物語と残業と。

残業を控え(書き終えたのはすでに残業中)、休憩しつつカレーパン(ローソン)を食べながら、それが入っていた袋に書かれた「本品に含まれているアレルゲン」の部分を読む。乳・卵・小麦・牛肉・大豆・鶏肉・豚肉・りんご。 お。ということで、川上未映子『乳と…

川上未映子の繊細な毒気と新作。

則本でなんとか連敗ストップ。とりあえずオールスター前に止まってよかったよかった。おかえり則本。 川上未映子の新作が出るということで、ちょっと読み返している。ガサごそと本棚を漁ると、『ヘブン』や『すべて真夜中の恋人たち』、『乳と卵』などが出て…

『幽霊たち』ポール・オースター

いつだったか忘れてしまったけれど、僕が初めて読んだポールオースターの小説。それが『幽霊たち』だった。 私立探偵ブルーは奇妙な依頼を受けた。変装した男ホワイトから、ブラックを見張るように、と。真向いの部屋から、ブルーは見張り続ける。だが、ブラ…

『闇の中の男』ポール・オースター

家族だろうが他人。他人だろうが家族である。 ある男が目を覚ますとそこは9・11が起きなかった21世紀のアメリカ。代わりにアメリカ本土に内戦が起きている。闇の中に現れる物語が伝える真実。祖父と孫娘の間で語られる家族の秘密──9・11を思いがけない角度か…

『リヴァイアサン』ポール・オースター

一人の男が道端で爆死した。製作中の爆弾が暴発し、死体は15mの範囲に散らばっていた。男が、米各地の自由の女神像を狙い続けた自由の怪人(ファントム・オブ・リバティ)であることに、私は気付いた。FBIより先だった。実は彼とは随分以前にある朗読会で…

ツイッターのアカウント移行。

つい先日、ツイッターのアカウントを移行した。今まで使っていたアカウントは消去。新たに作ったアカウントでは、まだ誰もフォローしていない。まあ、少しずつ増えていくかもしれないけれども、今のところゼロだ。 必要のない情報が増えすぎて、それにあたふ…

吉行淳之介『大きい荷物』を読んだら『手帖』にメモを

吉行淳之介の『大きい荷物』声の無駄遣い。記憶と言葉、音楽。窓から差し込む光。クロスではなく塗り壁。サッシには木製ブラインド。席には文庫本が10数冊並んでいる。隣には小さな地球儀。影が丸い。 いつもの席には先客がいて、しかたなく僕は別の席へ座る…

マリゾーカフェで夕食を、そして昼食も。

昨日から大船渡(岩手県沿岸部)の現場に来ている。大船渡と言えば、野球に興味のある方ならご存知であろう、大船渡高校の佐々木くん。高校生で、驚異の163キロを計測した(スピードガンの誤作動?)。 彼の通う大船渡高校のすぐ下(校舎は小高い丘の上に建ってい…

偶然の記憶はニューヨーク

一度だけニューヨークへ行ったことがある。それは妻との新婚旅行だったのだけれども、お互い自由奔放な性格だということもあって、別行動も多かった(喧嘩したわけでは全くない)。いわゆる観光名所とかいう場所にも勿論行ったのだけれども、まあどちらかと言…

愚痴はカズオ・イシグロへ、そしてロス・マクドナルドで眠る

知り合いの職人さんの手伝いで、僕は今仙台に来ている。今日明日の予定なので、今夜はビジネスホテルに宿泊(このブログはそこで書いている)。 その現場は、僕らクロス職人にとってこれ以上ないであろうくらい酷い。大抵の仕事には期限というものがあるけれど…

鹿に感謝したらヴォネガット

今日は鹿に出会った。勿論野生の鹿で、岩手県の内陸部と沿岸部を頻繁に行き来する僕にとって、それは特に珍しいことではないのだけれども、今日の鹿は道路の真ん中に堂々と立ち(いつもの彼らは路肩にいた)、完全によそ見をしていて、危なく轢きそうになった…

記憶と未来の間のティム・オブライエン

記憶というのはとても曖昧で不確かなもののような気がするけれど、それでも人は記憶を頼りに未来へと向かう。それすることしか出来ないのかもしれないし、そうではないかもしれない。よく分からない。 そんなことを考えていたら(書いていたら)、妻は「シイタ…

メタブログ的『ムーンパレス』論を書くための序文になりきれない雑文

やはり面白いです『ムーンパレス』 やっぱり好きです『ムーンパレス』 4月に入り、冬に逆戻り。 やはり面白いです『ムーンパレス』 そうなんです、僕は『ムーンパレス』を再読したのです。ムーンパレスというのはこの小説に出てくる中華料理屋さんの名前なの…

ムクワレナイオヤジたちよサラバ『どつぼ超然』町田康

『どつぼ超然』 論理より錯乱 町田康さんの文体の破壊力 町田康さんプロフィール 『どつぼ超然』 どうにも世間並に生きづらい男が、自らを「余」と称し、海辺の温泉地田宮の地で超然の三昧境を目指す。降りかかる人生の艱難辛苦。人間的弱さを克服し、成長す…

不条理な世界をユーモアたっぷりに描く一條次郎という作家さんに出会えた喜び

去年(2018年)の末。いつものごとく本屋さんをぶらぶらしていたら、ある小説の帯が目にはいった。僕の好きな作家のひとりである伊坂幸太郎さんによるその紹介文に惹かれて手に取る。聞いたことのない作家さん。しかし、最初の1ページ目にさっと目を通しただけ…